第3節 仏の国をささえるもの(433) 1.ウダヤナ王の妃[きさき]シャマヴァティーは、あつく世尊に帰依していた。 妃は王宮の奥深くにいて外出しなかった。侍女のウッタラーは、記憶力がよくて、いつも世尊の法座につらなり、教えを受けて世尊のことばのとおりを妃に伝え、これによって、妃の信仰は、いよいよその深さを増したのであった。 第二の妃、マーガーンディヤは、シャマヴァティーをねたんでこれを殺そうと企て、ウダヤナ王にいろいろ中傷した。ついに心を動かした王は、シャマヴァティーを殺そうとした。 そのときシャマヴァティーは、従容[しょうよう]として王の前に立ったが、王は妃の慈悲に満ちた姿に打たれて矢を放つこともできず、ついに心が解けて、妃にその粗暴なふるまいをわびた。 マーガンディヤは、いっそうの怒りを増して、ついに王の留守の間に、悪者と謀[はか]ってシャマヴァティーの奥殿に火を放った。妃[きさき]はあわて騒ぐ侍女たちを教え励まして、驚きも恐れもせずに、世尊の教えに生きながら従容[じゅうよう]として道に殉じた。ウッタラーもまた、火の中で死んだ。 シャマヴァティーは、在家の信女のうち慈心第一、ウッタラーは多聞[たもん]第一とたたえられた。 2.釈迦族の王、マハーナーマは世尊のいとこであるが、世尊の教えを信ずる心が至ってあつく、誠を尽くして帰依す る信者であった。 コーサラ国の凶悪な王、ヴァイルーダカ王が釈迦族を攻め滅ぼしたとき、マハーナーマは出ていって王に会い、城民を救いたいと願ったが、凶悪な王が容易に許さないのを知って、せめて自分が池の中に沈んでいる間だけ、門を開いて自由に城民を逃げさせてほしいと頼んだ。 王は、人間の水中に沈んでいる間だけのことなら、わずかな時間であるからと考えて、これを許した。 マハーナーマは池に沈み、城門は開かれ、人びとは喜んで逃げのびた。しかし、いつまでたってもマハーナーマは浮かび上がらなかった。彼は池に入って髪を解き、柳の根に結びつけ、自らを殺して人びとを救ったのであった。 3.ウトパラヴァルナー(蓮華色)は神通第一の比丘尼[びくに]であって、マウドガルヤーヤナ(目連)に比べられる人であり、 多くの比丘尼を引き連れて常に教化し、比丘尼の中のすぐれた指導者のひとりであった。 デーヴァダッタ(提婆達多[だいばだった])がアジャータシャトル(阿闍世[あじゃせ])王をそそのかして、世尊に対して反逆を企てたが、後、王が世尊に帰依してデーヴァダッタを顧みないようになり、城門に至ったがさえぎられて入ることができず、門前にたたずんでいたとき、おりから門を出てくるウトパラヴァルナーを見て、にわかに怒り出し、その大力にまかせてこぶしをあげて頭を打った。 ウトパラヴァルナーは痛みを忍んで僧坊に帰ったが、弟子たちの驚き悲しむのを慰めて「姉妹よ、人の命ははかられない。ものみなすべて無常であり、無我である。さとりの世界ばかりが、静かであって頼るべきところである。努め励んで道を修めるように。」と教え、静かに死についた。 4.かつて殺人鬼として、多くの人びとの命をあやめ、世尊に救われて仏弟子となったアングリマールヤ(指鬘[しまん])は、その出家以前の罪のために、托鉢[たくはつ]の途上で、人びとの迫害を受けた。 ある日、町に入って托鉢[たくはつ]し、恨みのある人びとに傷つけられて、全身血にまみれながら、やっと僧坊に帰って、世尊の足を拝して喜びのことばをのべた。 「世尊、わたくしはもと、無害という名でありながら、愚かさのために、多くの人の命を損ない、洗えども清まらない血の指を集めたために、指鬘[しまん]の名を得ましたが、いまでは三宝に帰依してさとりの智慧[ちえ]を得ました。馬や牛を御[ぎょ]するには、むちや綱を用いますが、世尊は、むちも綱もかぎも用いずに、わたくしの心をととのえて下さいました。 今日わたくしは、わたくしの受けるべき報いを受けました。生も願わず死も待たずに、静かに時の至るのを待ちます。」 5.マウドガルヤーヤナ(目連)はシャーリプトラ(舎利弗)と並び称せられた世尊の二大弟子のひとりであった。世尊の教えが水のように人びとの心に浸みこむのを見て、異教の人びとがねたみを起こし、いろいろな妨げをした。 しかし、どんな妨げも、まことの教えの広まってゆくのをとめることはできないで、異教の人びとは、世尊の手足をもぎ取ろうとして、目連をねらった。 一度ならず二度までも、その人びとの襲撃を避け得た目連も、ついに三度めに大勢の異教者に取りまかれて、その迫害を受けることとなった。 目連は、骨も砕け肉もただれ、暴逆の限りを静かに受け忍んで、さとりの心に何のたじろぎもなく、平和な心で死についた。 |
当ページの典拠→ 1.パーリ、法句経註1 1.増一阿含経34-2 2.増一阿含経34-2・パーリ、法句経註 3.増一阿含経5-1 3.有部律破僧事10 梵文根本有部律破僧事「給孤独長者入信説話」和訳→(pdf) 4.鴦掘摩経(おうくつま (「おう」=[央 / 鳥] )) 5.増一阿含経26 |