第3節 すぐれた徳(133)

1.
は五つのすぐれた徳をそなえて、尊敬を受ける。すぐれた行い、すぐれた見方、すぐれた智慧、さとりの道を明らかに説くこと、人びとをしてよく教えのとおりに修めさせることである。
 また仏には八つのすぐれた能力がある。一つには、仏は人びとに利益と幸福とを与える。二つには、仏の教えはこの世においてただちに利益がある。三つには、世の善悪正邪を正しく教える。四つには、正しい道を教えてさとりに入らせる。五つには、どんな人をも一つの道に導く。六つには、仏にはおごる心がない。七つには、言ったとおり実行し、実行するとおりに語る。八つには、惑[まど]いなく、願いを満たし、完全に行をなしとげる。
 また仏は、冥想[めいそう]に入って静けさと平和を得、あらゆる人びとに対して慈しみの心、悲[あわれ]みの心、とらわれのない心を持ち、心のあらゆる汚れを去って、清らかな者だけが持つ喜びを持つ。


2.この仏はすべての人びとの父母である。子が生まれて十六か月の間、父母は子の声に合わせて赤子のように語り、それからおもむろにことばを教えるように、仏もまた、人びとのことばに従って教えを説き、その見るところに従って相[すがた]を現わし、人びとをして安らかな揺らぎのない境地に住まわせる。
 また仏は、一つのことばをもって教えを説くが、人びとはみなその性質に応じてそれを聞き、仏は今、わたしのために教えを説かれたと喜ぶ。
 仏の境地は、迷える人びとの考えを超えており、ことばでは説き尽くすことはできないが、強いてその境地を示そうとすれば、たとえによるほかはない。
 ガンジス河は常に亀[かめ]や魚、馬や象などに汚されているが、 いつも清らかである。仏もこの河のように、異教の魚や亀などが競い来って乱しても、少しも思いを乱されることなく清らかである。


3.仏の智慧はすべての道理を知り、かたよった両極端を離れて中道に立ち、また、すべての文字やことばを超え、すべての人びとの考えを知り、一瞬のうちにこの世のすべてのことを知っている。
 静かな大海に、大空の星がすべてその形を映し出すように、 仏の智慧[ちえ]の海には、すべての人びとの心や思いや、その他あらゆるものがそのままに現われる。だから仏を一切知者という。
 この仏の智慧はあらゆる人びとの心をうるおし、光を与え、人びとにこの世の意味、盛衰、因果の道理を明らかに知らせる。まことに仏の智慧によってのみ人びとはよくこの世のことを知る。


4.仏はただ仏として現われるだけでなく、あるときは悪魔となり、あるときは神のすがたをとり、あるいは男のすがた、女のすがたとして現われる。
 病のあるときには医師となって薬を施して教えを説き、戦いが起これば正しい教えを説いて災いを離れさせ、固定的な考えにとらわれている者には無常[むじょう]の道理を説き、自我と誇りにこだわっている者には無我を説き、世俗的悦楽の網にとらわれているものには世のいたましい有様を明らかにする。
 仏のはたらきは、このようにこの世の事物の上に現われるが、それはすべてみな法身の源から流れ出るもので、限りない命、限りない光の救いも、その源は法身の仏にある。


5.この世は火の宅[いえ]のように安らかでない。人びとは愚かさの闇[やみ]につつまれて、怒り、ねたみ、そねみ、あらゆる煩悩[ぼんのう]に狂わされている。赤子に母が必要であるように、人びとはみなこの仏の慈悲に頼らなければならない。
 仏は実に聖者の中の尊い聖者であり、この世の父である。だから、あらゆる人びとはみな仏の子である。彼らはひたすらこの世の楽しみにのみかかわり、その災いを見通す智慧を持たない。この世は苦しみに満ちた恐るべきところ、老いと病と死の炎は燃えてやまない。
 ところが、仏は迷いの世界という火の宅を離れ、静寂な林にあって、「いまこの世界はわがものであり、その中の生けるものたちはみなわが子である。限りない悩みを救うのはわれひとりである。」と言う。
 仏は実に、大いなるの王であるから、思いのままに教えを説く。仏はただ、人びとを安らかにし、恵みをもたらすためにこの世に現われた。人びとを苦しみから救い出すために、仏は法を説いた。ところが、人びとは欲に引かれて聞く耳を持たず気にもしていない。
 しかし、この教えを聞いて喜ぶ人は、もはや決して迷いの世界に退くことのない境地におかれるであろう。「わが教えは、ただ信によってのみ入ることができる。すなわち、仏のことばを信ずることによって教えにかなうので、自分の知恵によるのではない。」と仏は言った。したがって仏の教えに耳を傾け、それを実践すべきである。


当ページの典拠
    1.パーリ、中部8-77、善生優陀夷大経
    2.大般涅槃経
    2.楞伽経
    3.華厳経第32、如来性起品
    4.法華経第25、普門品 【観音経】
    4.大般涅槃経
    5.法華経第2、方便品
    5.法華経第2、方便品